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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2782号 判決

昭和五一年(ネ)第二七八二号事件控訴人

同年(ネ)第三〇七六号事件被控訴人(以下、控訴人という。)

山岸富保

昭和五一年(ネ)第二七八二号事件控訴人

同年(ネ)第三〇七六号事件被控訴人(以下、控訴人という。)

山岸正典

右法定代理人親権者父

山岸富保

昭和五一年(ネ)第二七八二号事件控訴人

同年(ネ)第三〇七六号事件被控訴人(以下、控訴人という。)

相曾みつえ

右三名訴訟代理人弁護士

坂根徳博

昭和五一年(ネ)第二七八二号事件被控訴人

同年(ネ)第三〇七六号事件控訴人(以下、被控訴人という。)

村木喜代志

昭和五一年(ネ)第二七八二号事件被控訴人

同年(ネ)第三〇七六号事件控訴人(以下、被控訴人という。)

浜松市中央農業協同組合

右代表者

中村重平

右両名訴訟代理人

御宿和男

主文

一  控訴人山岸正典の被控訴人らに対する控訴、控訴人相曾みつえの被控訴人村木喜代志に対する控訴、被控訴人らの控訴人山岸富保に対する控訴及び被控訴人浜松市中央農業協業組合の控訴人相曾みつえに対する控訴をいずれも棄却する。

二  控訴人山岸富保の被控訴人らに対する控訴、控訴人相曾みつえの被控訴人浜松市中央農業協同組合に対する控訴、被控訴人らの控訴人山岸正典に対する控訴及び被控訴人村木喜代志の控訴人相曾みつえに対する控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人村木喜代志は、

(一)  控訴人山岸富保に対し三八八四万五七二八円及び内金三五三四万五七二八円に対する昭和五〇年四月一日から、内金三五〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員、

(二)  控訴人山岸正典に対し三八四万七八八二円及び内金三四九万七八八二円に対する昭和五〇年四月一日から、内金三五万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員、

(三)  控訴人相曾みつえに対し六四万円及び内金五八万円に対する昭和五〇年四月一日から、内金六万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

2  被控訴人浜松市中央農業協同組合は、控訴人山岸富保に対し三八一一万円、控訴人山岸正典に対し三八四万七八八二円、控訴人相曾みつえに対し六四万円及び右各金員に対する本判決確定の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人らのその余の請求(控訴人山岸富保及び同相曾みつえの当審における拡張部分を含めて)を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

四  この判決は、主文第二項1、2に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一事故の発生等について〈省略〉

二損害について

1  治療費等〈略〉

2  亡七枝の逸失利益

一三九九万〇四六七円

すでに判示したとおり、亡七枝は、昭和一六年三月一八日生れの主婦であるから、本件事故当時、三三歳であるが、〈証拠〉を総合すれば、亡七枝は、本件事故当時、健康であつたことが認められるので、本件事故がなければ、少なくとも六五歳までの三二年間程度は主婦として、労働することができ、この間、女子雇用労働者の平均賃金に相当する財産上の収益を挙げることができたものと推認するのが相当である。

ところで、〈証拠〉によれば、労働省統計情報部編賃金構造基本統計調査による昭和五〇年の女子労働者全産業平均の月間給与額は八万八五〇〇円、年間賞与その他の特別給与額は二八万九五〇〇円であり、昭和五一年の右月間給与額は九万二七〇〇円、右年間特別給与額は二六万七五〇〇円であることが認められる。

(一)  そこで、亡七枝は、右労働可能の三二年間の一年目である昭和五〇年度において、年間一三五万一五〇〇円の収入を得ることができたことを推認するのが相当であり、そのうち生活費として、五割を要するとみるのが相当であるから、これを控除した六七万五七五〇円を基礎として、右一年分についてホフマン式計算(係数0.9523)により年五分の中間利息を控除して得た六四万三五一六円(円未満切捨)が同人の死亡時における右一年分の得べかりし利益の現価であるというべきである。

(二)  次に、亡七枝は、右労働可能の三二年間の二年目である昭和五一年度において、年間一三七万九九〇〇円の収入を得ることができたことが推認でき、そのうち生活費として、五割を要するとみるのが相当であるから、これを控除した六八万九九五〇円を基礎として、右一年分についてホフマン式計算(二年の係数1.8614から一年の係数0.9523を控除した一年分の係数0.9091)により年五分の中間利息を控除して得た六二万七二三三円(円未満切捨)が同人の死亡時における右一年分の得べかりし利益の現価であるというべきである。

(三)  次に、亡七枝は、右労働可能の三二年間の三年目以降の三〇年間において、年間、右昭和五一年度における年収一三七万九九〇〇円に〈証拠〉により認められる昭和五二年民間主要企業春季賃上げ率8.8パーセント相当分を加えた一五〇万一三三一円(円未満切捨)の収入を得ることができたものと推認するのが相当であり、そのうち生活費として、五割を要するとみるのが相当であるから、これを控除した残額七五万〇六六五円を基礎として、右三〇年分についてホフマン式計算(三二年の係数18.8060から二年の係数1.8614を控除した三〇年分の係数16.9446)により年五分の中間利息を年毎に控除して得た一二七一万九七一八円(円未満切捨)が同人の死亡時における右三〇年分の得べかりし利益の現価であるというべきである。

(四)  したがつて、右(一)ないし(三)の亡七枝の死亡時における得べかりし利益の現価の合計額は一三九九万〇四六七円となる。

なお、控訴人らは、亡枝の収入については、右女子雇用労働者の平均賃金額に家事労働分による二割相当額を加算すべきであると主張するが、すでに判示したとおり、同人は、家事に従事する主婦であつて、現に主婦だけではなく、その他の職業にもついており、又は将来そのような可能性を有する場合とは異なるから家事労働による収入相当額を加算することはできないというべきである。したがつて、控訴人らの右主張は、採用することができない。〈中略〉

四被控訴人組合に対する請求について

1  控訴人ら主張の請求原因九の(一)の事実及び本件共済契約が本件約款に基づき締結されたことは当事者間に争いがない。

2  次に、〈証拠〉(本件約款)によれば、本件約款第六条第一項には「対人賠償損害が生じた場合に組合が支払う共済金の額は、一回の事故による損害に対し、被共済者が支払つたまたは支払うこととなつた損害賠償金の額に相当する金額とします。」と規定され、また、同条第五項には「第一項の規定による被害者一名ごとの共済金の額が対人賠償金額をこえる場合には、組合が支払う共済金の額は、同項の規定にかかわらず、対人賠償共済金額に相当する金額とします。」と規定されていることが認められる。

右各規定を合わせ考えれば、本件約款により支払われる共済金の額は、被害者一名ごとに支払われる額には制限があるが、一事故に関し支払われる額には制限がないと解するのが相当である(なお、この点については当事者間に争いがない。)。したがつて、被控訴人組合は、被控訴人村木に対し、本件事故による死亡者一名ごとに二〇〇〇万円を限度とする共済金を支払うべき責任のあることが明らかである。

3  次に、控訴人らは、被控訴人ら間の本件共済契約は控訴人らのためにされたものとみられるから、控訴人らは被控訴人組合に対し、直接、本件事故による共済金の支払を請求することができると主張するので、判断する。

〈証拠〉によれば、本件約款第四条には、被控訴人組合に対し、自動車事故による損害を填補するための共済金請求権を有する者は被共済者である旨が規定され、ただ、同約款第一五条第一項には、同項所定の事由がある場合にのみ被共済者に対する損害賠償請求権者が被控訴人組合に対し、直接、損害賠償額の支払を請求できる旨規定されていることが認められる。

そして、すでに判示したところによれば、本件共済契約の被共済者は被控訴人村木であり、控訴人らは、その被共済者ではないうえ、控訴人らが、直接、被控訴人組合に対し、本件損害賠償の請求することができることを窺知できるような事実の主張及び立証はない。したがつて、控訴人らは、被控訴人組合に対し、直接、本件事故による共済金の支払を請求できる権利を有しないから、控訴人らの右主張は採用することができない。

4  次に、控訴人らの共済金請求権の代位行使について判断する。

〈証拠〉によれば、被控訴人村木は、資産としては見るべきものがなく、無資力であることが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、被控訴人村木は、被控訴人組合に対し、いまだ前記共済金債権を行使していないことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、控訴人らは、被控訴人村木に対する前記認定の損害賠償債権を保全するため、同被控訴人に代位して、被控訴人組合に対し被控訴人村木の前記共済金債権の支払を請求することができるものというべきである。

5  ところで、前記認定の損害を死亡者別に分けると、次のとおりである。

(一)  亡七枝の分

(1) 治療費 三万円

逸失利益

一三九九万〇四六七円

本人の慰藉料 四〇〇万円

葬儀費用 四〇万円

控訴人らの慰藉料 六〇〇万円

合計 二四四二万〇四六七円

(2) 受領した自賠責保険金

一〇〇三万一四四〇円

被控訴人村木からの受領金

四三万円

合計 一〇四六万一四四〇円

(3) 加算すべき弁護士費用(約一割)

一三九万円

(4) 請求額((1)+(3)−(2))

一五三四万九〇二七円

(二)  亡士朗分

(1) 治療費 四万円

逸失利益

二〇七〇万〇八九六円

本人の慰藉料 三〇〇万円

葬儀費用 三〇万円

控訴人富保の慰藉料

三〇〇万円

合計 二七〇四万〇八九六円

(2) 受領した自賠責保険金

一〇〇四万一七七〇円

被控訴人村木からの受領金

三四万円

合計 一〇三八万一七七〇円

(3) 加算すべき弁護士費用(約一割)

一六五万円

(4) 請求額((1)+(3)−(2))

一八三〇万九一二六円

(三)  亡由佳の分

(1) 治療費 八万円

逸失利益

一二九〇万八八二七円

本人の慰藉料 三〇〇万円

葬儀費用 三〇万円

控訴人富保の慰藉料

三〇〇万円

合計 一九二八万八八二七円

(2) 受領した自賠責保険金

一〇〇八万九八七〇円

被控訴人村木からの受領金

三八万円

合計 一〇四六万九八七〇円

(3) 加算すべき弁護士費用(約一割)

八七万円

(4) 請求額((1)+(3)−(2))

九六八万八九五七円

(四)  以上のとおり、右死亡者三名の損害請求額は、いずれも前記共済金についての一名ずつの限度である二〇〇〇万円を越えないから、控訴人らは、被控訴人村木に代位して、被控訴人組合に対し前記損害賠償額相当の共済金の支払を請求することができるものというべきである。

6  更に、控訴人らは、本件共済金の支払義務の履行期は本件事故発生の時に到来したと主張するので、判断する。

本件共済金支払義務の履行については、契約当事者間で約定がされたことを窺知できるような事実の主張及び立証はない。ところで〈証拠〉によれば、本件約款第一三条第一項には「被共済者は、車両損害が生じたことを知つたとき、または対人賠償損害もしくは対物賠償損害の額が確定したときは、その知つた日または確定した日から一か月以内に共済金支払請求書に次の書類を添え、これを組合に提出して、共済金の支払を請求してください。」と規定され、また、同条第四項には「共済金は、調査のため特に日時を要する場合を除き、第一項の書類が組合に到達した日から一か月以内に、組合の事務所または組合の指定する場所で支払います。」と規定されていることが認められる。

右の規定は、共済金請求及びその支払の手続きを定めたものであるとともに、共済金支払の履行期を窺知させるものと解される。けだし、本件共済契約のような共済契約においては、共済組合が被共済者の損害を填補する義務は、被共済者の被害者に対する損害賠償責任の存在及びその賠償額が確定しなければ、これを履行することはできないからである。そして、通常の場合、右損害賠償責任の存在及び賠償額は、被共済者と被害者との間に成立する示談又確定判決(裁判上の和解、調停などを含む)により確定されるから、これによつて、共済組合の共済金支払義務の履行期が到来するものと解される。したがつて、本件共済契約についても控訴人らと被控訴人村木との間に損害賠償額が確定しない限り、共済金支払義務の履行期は到来せず、控訴人らの被控訴人村木に対する損害賠償請求訴訟についての判決が確定すると同時に、被控訴人組合の共済金支払義務の履行期が到来するものと解するのが相当である。

7  結び

以上述べたところによれば、被控訴人組合は、共済金として、控訴人富保に対し右三の三八八四万五七二八円のうちその請求にかかる三八一一万円、控訴人正典に対し右三の三八四万七八八二円、控訴人みつえに対し右三の六四万円及び右各金員に対する本判決確定の日の翌日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。《以下、省略》

(枡田文郎 斎藤次郎 佐藤栄一)

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